『あの頃・・・「私と高知城」』 田中 滋子
数年前に90才の両親と共に、高知城を訪れた想い出がよみがえる。
本当に久しぶりの高知城であった。両親と行ったのは生まれて初めてである。
母は、土佐女子高等学校の乙女の頃、長いおさげ髪にセーラー服【その頃(昭和八年卒業)は、スカートにも白い二本線が入っていた】姿で、城内の庭園で「ここで卒業アルバムを撮影した」と72年昔を想いだしたと、なつかしく話してくれた。
天守閣への玄関に着いた頃「疲れたから上には上がらない」と言いだした両親を無理矢理うながし、急な階段を登らせて、やっと天守閣にたどり着いた。
眼下に高知市内をはるか遠くまで見渡し乍ら、南から吹き上げて来る五月の風が、一瞬に汗を消し、肌に涼しく、そして髪に心地よく通り抜ける。その時の両親のすばらしい笑顔を想い出す。
ちょっぴり親孝行をさせてもらったかなと思わせてくれたのは、天守閣に吹く初夏の風のおかげだったような気がする。
そして高知城をサーチライトで照らし始めてから約17年、毎晩店に出て最初に感じる事がある。
それは、天空の暗闇の中に白い一筋の光が、空気のきれいな夜は、透明感のある深いブルーの色になり、空気が汚れている時は、白く濁って見えてしまう。ほんの少し観光のお役に立てばと始めたライトアップだが、いつの間にか空気にも感心が出来たようにも感じられる、いつまでも高知の空が、クリスタルの様に澄んだ空気でありますように・・・・。
そして高知のシンボルである高知城が、誰でも何処からでも眺められ、いろいろな、なつかしい時代「あの頃・・・」を、想い出させて下さいますように。
やっぱりいいなぁ・・・・高知城・・・・。